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台風だというのに課長の一言で

残業になった。

月初は忙しくて資料作成なんか

出来ないからやるしかない。

昼過ぎには社内メールがまわり

多くの社員は定時前には帰った。

当の課長も。

結局22時まで掛かって上がり、

外に出ると空は既に晴れていた。

相方は飲みに行っていたらしく、

日付の変わる頃に帰ってきて

そのまま寝た。

-9/1

月初の作業が意外に早く終わり、

21時ごろには部屋に着いた。

相方は仕事らしく帰ってこない。

簡単な食事を摂り、缶ビールを

飲みながらDSをやっていた。

夜風が気持ちいい。

と、窓の方向からガサガサッと異音。

そのまま自分のすぐ横に着地した。

黒光りする固そうな背面。

自慢げに伸びた2本の触覚。

あの、アレ。

ジェットコースターもお化け屋敷も

大して恐怖なんか感じない故に、

自分の本気の悲鳴というやつを

生まれて初めて聴いた。

影は明りを避けるように物陰に消える。

近くにあったカビキラーを手に取る。

隙間に吹きかけると違う場所へ。

隅に追い詰めたまま睨み合い。

目を放した隙に逃げられたら怖い。

とにかくこのままの武器じゃ戦えない。

相方に電話すると、呼出が鳴らずに

「電波の届かないところにあるか・・」

と機械的なアナウンス。

20分近く掛け続けても繋がらない。

地下鉄なら一回くらい出るだろう。

仕事兼用のそれの電池を切らすか？

圏外じゃなくて、電源を切っている。

何故？

でもそれどころじゃない。

よく遊びに来ていたセフレさんに

電話してみる。

返事は、飲んでるから行けない。

界面活性剤で死ぬよ、と聞いて

台所に食器洗剤を取りに行く。

相方は相変わらず繋がらない。

2人目に電話しようとしたときだった。

部屋のドアが開く。

iPodを聴きながらご機嫌な様子。

自分は一点を見つめ背を向けたまま

喋りだした。

不安と恐怖と緊張で情けない声。

自分：「何で携帯の電源切ってんの」

相方：「電池が切れたんだよ」

自分：「仕事に支障はなかったの」

相方：「なに、怒ってんの？」

自分：「窓がちゃんと閉まってなかった」

相方：「で？」

自分：「大っきくて黒いのが入ってきた」

相方：「・・俺も苦手なんだよね」

見張りを嫌がったので買出しに行かせる。

数分後、ようやくゴキジェットが手に入った。

しかし追い詰めていたはずの部屋の隅に

光を当てても敵の姿はなかった。

仕方なくホイホイを部屋中に設置する。

疲れたのでもう寝ることにした。

相方は夕飯を摂りながらDSをやっている。

うとうとと眠りに入りかけたときだった。

「あぁぁぁあ！」という声で起こされる。

どうせまたゼルダが死んだんだろう。

「＿＿＿！茣蓙の下に！！」

出たらしい。

テーブルの下のクッションの陰に入る。

ガサガサと物音が続く。

相方は完全に逃げ腰になっている。

せっかく姿を現したのなら、ここで

退治しないわけにはいかない。

ゴキジェットを手に取り、構える。

クッションをどかすと更に奥の方へ。

ホイホイの上に乗っているのが見え、

暗いその空間に向かって噴射した。

携帯で照らしてみると、引っくり返っている。

何度か動かなくなるまで吹きかけて

チラシの上に乗せゴミ袋に入れ、

何重にも包んで封印する。

部屋中にゴキジェット臭が充満していた。

恐る恐る窓を開け、換気。

手を洗って部屋に戻ると、急に力が抜けた。

相方に抱きついて泣きそうになる。

ようやく眠りにつくことが出来た。

-9/2

前日と同じくらいの時間に部屋に着く。

DSにも飽きてきたので、BOOK-OFFで本を

数冊買って帰った。

網戸がしっかり閉まっているのを確認して

ゆっくりとくつろぐ。

相方も比較的早めに帰ってきて、枝豆を茹で

晩酌を始めた。

満腹だったので先にベッドに上がる。

「襲わないでね」と言って相方も横になった。

友人からのメールに返信する。

なかなか寝付けないらしく何度か目が合った。

「ていうか」

脚に毛布をかけた。

「空気嫁よ」

ん？

「いつまで携帯いじってんだよ」

したいんだ？

「3日半してないなって考えたら勃起した」

これが37歳のオッサンの誘い方なんだろうか。

素直じゃない。

この可愛い人はどんだけ惚れさせたら気が

済むんだろう。